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動き回る翻訳者の運命的な(!)出会いを紹介します

翻訳業界の今後の人探しは?

今の翻訳業界の大きな話題の一つは、機械翻訳だから、去年から機械翻訳にまつわるお話を聞くことが多い。

本日は日本翻訳連盟の「通信社と放送局が開発するニュース翻訳MT最前線」というセミナーに参加した。東京大学の中澤先生、NHK放送技術研究所山田一郎氏、NHKエンジニアリングシステム田中英輝氏、時事通信社津田明氏、時事通信社朝賀英裕氏という錚々たる方々の登壇だ。

「えっ、ニュース翻訳と言えば、最も最後まで機械化が難しそうな領域では?」と思ったら、やっぱり「最後まで難しい」かはわからないが、様々な研究の努力・進歩を聞いても、まだ現状ほとんどの用途ですぐ実用として使うのは難しい。

翻訳者でも言葉のこだわりや、文章力が高いほうだというのに、ジャーナリストの言語レベルはさらに高いだろうから、要求レベルも高い。訳文に対する許容範囲も常人より狭いだろう。

中澤先生のお話を伺って、ようやくニューラル翻訳の仕組みがブラックボックスのイメージから、もう少し具体的になった。大いに語弊があるだろうが、翻訳結果を例えるならば最近時の私のように、大人としての理解力・表現力があがり、若い頃よりは比較的滑らかに言語表現できるようになったが、大ざっぱになり、「えーっと、あれよあれ、名前が覚えられない」「数字がちゃんと再現できない…」みたいな。バチっと飛ぶ訳抜けという物忘れ的な現象も発生する。なんだか、ちょっと我が身にも似て耳が痛い。その理由は、単語は数字化され、ベクトルとしてとらえられているので、相対的というのか、固有名詞や数字が絶対的にA=Aとならないのだそうだ。

ジャーナリストは翻訳者にまして、機械翻訳の結果に厳しい。それは当然だ。ジャーナリストの情報の核である5W1Hが違ってきたら、許さないだろう。

しかも、翻訳者だとマーケティング資料や字幕翻訳・文芸翻訳でもなければ、実務翻訳では、訳文は最大限工夫するにしても、あまり大きく分かりやすさのための編集はできないが、翻訳記事はジャーナリストが分かりやすさのために、大胆に編集や補足をなすことができる。その能力が機械にあるかと言ったら…。
普段、翻訳者が機械翻訳に対して言っている文句を、ジャーナリストはさらに増幅して感じておられるさまに、在席の翻訳関係者も「そうそうそうそう」とうなづいて聞いていたことと思う。

質疑応答で、参加者の「では、いったい、いつ、固有名詞や数字や訳抜けは解決するのか?」と研究の見通しへの問いの答えの中で、中澤先生は「必ずしも、機械翻訳の中で解決しなくてもよいかもしれない。前処理・後処理で解決する方法もあるかもしれない。今は、それをやりたがる人がいないのが問題なのだ。」とおっしゃった。

私は、それを聞いて、後処理をする人を翻訳者・翻訳志望者という従来の関係者から探そうとするから難しいのではないかなと思った。私が会社員時代、輸出部門にいた時、取引先の商社のアシスタントの女性のチェックはいつも完璧だった。様々な船積書類のチェック・取り回しは彼女たちに任せておけば安心だった。人事部門にいた時、人事部門はルーティン業務が非常に多く、入力の鬼やチェックの鬼がたくさんいた。決まった仕事は完璧で熟練していて高度であるが、新しい仕事はやりたくないという人が相当数いるのだった。その手の仕事は得意ではない私は、本当にその仕事の質を尊敬していた。

固有名詞でしょ?数字でしょ?訳が抜けてないかどうかでしょ?チェックポイントがはっきりすれば、あの人たちにチェックしてもらえば無敵なのにと、いろんな昔の仲間の顔が浮かんできた。

翻訳会社は、今後の人探しの方向性を変えたほうがいいかもしれない。MT/PEを担う人材に向いた、日本の仕事の品質の高さを支えてきた事務要員、世の中にたくさんいますよ。よもや翻訳業界に自分が役立つなどと思ってもみないで市中に存在している。

ともあれ、今どき機械翻訳のように発展の進捗がこんなに早い業界はあるだろうか、やっぱり面白くて目が離せなくなりそうだ。そして、ニュース翻訳という難度の高い翻訳ジャンルにおいて果敢に研究開発に携わっておられる通信社と放送局のMT最前線におられる方々のお話、翻訳記事配信の現場に携わっておられる方のお話を聞いて本当に興味深かった。

会場も広くなったので、翻訳関係者はぜひJTFのセミナーに参加したほうがいいと思う。